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「IT25・50」シンポジウム「アラン・ケイ基調講演(全文・日本語訳)」を公開します

「IT25・50」シンポジウム
アラン・ケイ基調講演(全文・日本語訳)
https://www.youtube.com/watch?v=dZDfWEwcwY4

01_1968
 50年前、1968年はパーソナルコンピュータの誕生にとって記憶すべき年でした。多くのことがありましたが、そのうちのひとつがダグ・エンゲルバートのビッグ・デモでした。そこで世界で初めてマウスが披露されたのです。
02_ConcentrateBigDemo
 同じ年、GRAILという最初のペンベースのシステムも紹介されました。最初のヴァーチャル・リアリティのシステムも、同じ会議で披露されました。
 私がパーソナルコンピュータの理想型「ダイナブック」の最初のアイデアを発表したのも1968年でした。タブレット型のパーソナル・モバイル・コンピュータであらゆる人たち、特に児童を対象にしたものでした。アイデアとしては、子どもたちが持ち運んで学習に使える本のようなもので、大人になってからも学習に使えるものを考えたわけです。
03_DEtryingtodo
 それでは、エンゲルバートが何をやろうとしたのか、彼のビッグ・デモに集中したいと思います。そして、ダグ・エンゲルバートが何をしようとしているかを理解する必要があることをお話したいと思います。
 私たちは、マウスやビデオ会議など、テクノロジーのことばかり考えがちですが、それはかえって人々が、より大きなアイデアが何であるかを理解する上で妨げとなっていました。
04_ShowLikeThis
 これが会場です。デモが実際に行われたところです。2,000人くらい収容できる会場でした。私が座っていた位置がここです。大きな画面でした。150万ドルくらいするプロジェクタがありました。
 こういったものを表示していたのです。多くのものが紹介されました。
05_MouseKeyset2
 こういうコンピュータとのやりとりがありました。今よりもちょっと便利なものもありました。キーセットというものがあって、右手をマウスに乗せたまま、左手で操作するのですが、このふたつの組み合わせで、情報空間を非常に速い速度でまわることができました。普通は、真ん中のキーボードでテキストを入力するのですが、ちょっとしたテキストの入力であれば、キーボードを使う必要がなかったので、とても効率的だったのです。
 ハイパーリンクや、今日私たちがワードプロセッサと呼んでいる機能など、多くのものが含まれていました。今これを見ても、当時のシステムは、今私たちが使っているシステムより優れているところがありました。ただ、ディスプレイの質は今より劣っていました。
 それから、これはデモの後半で紹介されたもうひとつの事例です。現在、私たちがやっているのと同じようなテレビ会議をやっていましたが、違うところがあります。黒板を共有しながらテレビ会議をやっていたのですが、誰もがポインタを持っていて、グーグル・ハングアウトと違って、参加者はポインタを取り合わなければなりません。自分の手が、この共有システムの中に延長しているかのようでした。
06_CampFire
 私たちが今何をやっているかというと、10万年前の洞窟に住んでいた人たちには馴染みのことをやっているのです。私はロンドンに居るわけですが、皆さんにこの部屋に来てもらって、キャンプファイアを囲んで座ってもらい、私の話を聞いてもらっているわけです。五千年前、ものを書くという技術が生まれたわけですけれども、ものを書くというのは、私が説明しようとしている内容により適しています。なぜなら、皆さんは自分のペースでそれを読むことができるからです。そして、思うがまま自由自在に前後することもできますし、理解できないことがあった場合には、戻ることもできるわけです。しかし、私が話している以上、そういうことはできません。あとでビデオをご覧になっていただいても、効率はそんなによくありません。
 場合によっては、エンゲルバート・システムを使うということも考えられます。この場合、50年前、私たちは情報を共有するだけでなく、操作することもできたわけですが、現在のシステムでは、テキストを加工することができません。パワーポイントは、透明なプラスティック・スライド、すなわち50年前のOHPを真似しようとしているわけですが、これは馬鹿げたことです。本来コンピュータができることをやっていないのです。
 皆さんは、おそらくiPhoneをお持ちでしょう。エンゲルバート・システムであれば、このプレゼンテーションを共有して、たとえば「これをご覧になってください」「これを試してください」といったら、プレゼンテーションを見ている間に試すことができるわけですが、iPhoneはそういったことを可能にしていないので、それができないのです。50年前のこれらのことをやっていないのです。
 根底にある技術は50年前より優れていたりするのですが、ほとんどの人にとって、ものを書くというのは未来の話です。学校で学んでも、本格的には使っていないのです。何か議論をする際には、ものを書くのではなく、会議に参加したりするわけです。50年前のエンゲルバート・システムが実現するのは、まだまだ将来を待たなければなりません。もうすでに実現されていると思うかもしれませんが、実はそうではないのです。私がここで話している内容は、将来実現するものなのですが、参照しているのは、この過去の天才です。
07_BretVictor
 私の友人で同僚のブレッド・ビクターは、若い優れた思想家なのですが、彼は新聞のダグ・エンゲルバートのインタビュー記事を読んで、「まるでジャーナリストがジョージ・オーウェルのような偉大な作家をインタビューする際に、オーウェルが使っているタイプライターの話しか聞かずに、彼が何を考えているかとか、何をしようとしているのかということを聞かないようなものだ」と言っています。それは、アイデアを避けて、テクノロジーばかりに夢中になる愚かな行為です。
08_MouseCarRadioButton
 そのことに、ダグ・エンゲルバートは非常に苛立ちを感じていました。みんなマウスのことばかり取り上げる。しかし、彼によれば、マウスはカーラジオのボタンみたいなもので、マウスだけでなく、我々は車ごと作ったのだと言っています。90分もの長いデモをやったのです。マウスのことは気にしないで、他のことをもっと考えてほしいと彼は言っていました。私が本日お話したいのは、デモの内容ではなく、その背景に何があったかということです。
 デモは、本当に大きなアイデアと関連しています。単なる一台の車についてとか、飛行機についてということではなく、人類のための交通手段という大きなアイデアです。それが何か、それが将来どうあるべきかを考えることなのです。
09_SAGE
 最初のインタラクティブ・コンピュータは、デモの17年も前に遡ります。1950年代の初め、MITのWhirlwindには、ディスプレイも、最初のポインティング・デバイスもありました。それはまるでライトガンを手に持っているようなものでした。
 数年後、これらは防空システムに変わりました。巨大なコンピュータが何台もあり、一台ごとに何十人ものスタッフがついていて、連携しながら作業していました。そして、それが航空制御システムに代わり、今では世界中で使われています。
10_RANDTablet
 それから、1960年代初頭、ダグ・エンゲルバートが以前に予測したことが実現できるようになってきました。インタラクティブなコンピュータ・グラフィックスとか、オブジェクトのシミュレーション、アイコン、ウィンドウ、クリック、ズーム、CADなどです。一年後には、これが三次元になり、複数のウィンドウを使ってできるようになりました。
 そして、私が最初のパーソナルコンピュータと考えているのは、LINCというもので、1962年に実現されました。
それから、スタイラス・ペンを使った高品質のタブレットというのは、1963年に発明されました。このように、多くのテクノロジーが進行していたのです。
11_BigIdea
 では、何故、私たちはエンゲルバートの話をしているのでしょうか。その答えは、1962年に彼がこういう提案書を書いているからです。
「人間の知性を増強するための概念的枠組み」
 これは、144ページにわたって書かれた、パーソナルコンピューティングに関する非常に大きなアイデアです。エンゲルバートに関心を持っている人たちの多くは、これをあえて読もうとしません。というのは、デモさえ見れば、これを読む必要がないと考えているからです。しかし、より多くのアイデアがここに入っています。
 私の今回の講演の目的は、皆さんにぜひこれを読んでいただきたいということです。グーグルで検索していただければ、このPDFをダウンロードすることができます。私はこれから、ダグの提案のポイントをいくつかここで説明します。そして、その中心的なアイデアのひとつを皆さんに伝えたいと思います。
12_NavyRadar
 これを理解するためには、1940年代まで戻らなければなりません。ダグ・エンゲルバートは若く、海軍のレーダーの技術者でした。そこで彼は初めて、CRTというものがあったわけです。テレビの前です。そして、このレーダーの中では、ただ単に探査信号だけでなく、たとえば文字のようなシンボル、記号とか、数字とか、そして、今全体的にどういう状況が起きているかということを見ることができたわけです。その3つの情報をスクリーンで見ることができたということで、ダグ・エンゲルバートはこのような形でディスプレイの情報を見ることができるということに気づいたわけです。
13_MEMEX
 彼はまた、海軍にいた間にヴァネヴァー・ブッシュが書いた論文を読んでいます。MEMEX(記憶拡張装置)という将来の先進的なデスクについて書いた論文です。デスクの上には、複数のスクリーンや、スタイラス・ペンのようなポインティング・デバイス、スキャナー、キーボードが設置されています。デスクの中には光記録媒体があって、サイズは小さな町の図書館くらい、約五千冊分の本を収納できます。この時にすでにハイパーリンクという考え方が、ブッシュの論部に出てきています。このアイデアがダグ・エンゲルバートの想像力を刺激しました。
 私はこの当時、1945年というと5歳でしたから、論文を読むことはできませんでした。十年後になって、初めて私はこの論文を読むことができたわけです。
14_Berkeley
 1950年代になると、ダグは海軍を退役して、バークレーの大学院に行きました。25人の学生と数人の教授で、まったくゼロから初期の段階のコンピュータを開発しようとするプロジェクトに加わりました。これは50年代の写真ですが、この当時、ダグは多くのことを学びました。ただ単にコンピュータがどのように動くかといった知識だけでなく、どのようにコンピュータを開発し、どのようにプログラムを組んだらいいかといった、より確固としたアイデアを身につけたのです。
 そして、この当時は冷戦時代ですから、かれは軍で仕事をしていたということもあり、世界の問題に大変気を揉んでいました。これから先、世界はどうなってしまうのだろうか、と考えていたわけです。そして、自分も何か問題を解決する一助になれないだろうかと考えました。
15_EinsteinMessage
 これはアインシュタインの言葉です。
 問題を引き起こしたときと同じレベルで考えていても、その問題を解決することはできない。
 これは50年以上前の言葉です。しかし、この言葉こそ今日、さらに重要性を増してきていると思います。
 そして、さらに考えなければならないのは、我々が今考えているレベルでは、実は私たちが正しく思考していないということをさえ気づいていない可能性があるということです。
 たとえば、ワシントンDCにいる政治家たちは、自分たちは何もかも理解してやっているのだという風に思っているけれども、実はそれは非常に弱い考え方、間違った思考だということにさえ、気づいていないということがあるわけです。
 したがって、本当に問題解決をしたいのであれば、まずは、自分の考え方というのは弱いのだ、何故なら、自分は人間だから、完全な思考形態は気づくことができないということを、まず認めるべきなのです。そして、本当にもっと思考を高めるためにはどうすればいいということを真剣に考えなければなりません。これは、本当に能力のいることです。自分の思考力が弱いということを認めなければならないからです。しかし、一旦これを認めることができれば、自分の思考力を高められるようになります。
16_NewMeaningForOldWords
 そうするためには、たくさんの本を読むことが必要です。これらはダグラス・エンゲルバートが読んだ本の一部です。その多くはシステムに関するものです。これから私は、このシステムについて説明しようとしています。というのも、多くの人たちが、彼の本当の意図を理解できないでいるわけですが、それは、彼がシステムの言葉で考え、システムの言葉でそれを人々に説明しようとしていたからなのです。
 もうひとつ、彼が興味を持っていたのは人類であり、人類が意味を構築するときに、どのように構築していくのかということでした。その中には、言語と思考の関係、私たちが言語を使ってどう物事を考えるのかということがありました。私たちが、外部の何かについてどう考えるかということは、科学が関係することです。私たちの脳の中にある地図が、外部の何かをどう認識するかは、私たちの頭が正しく正気であるかどうかということにも関わってくるわけです。
 そして最後に非常に重要な論文があります。これもオンラインで手に入れることができます。1960年に書かれたもので、これはアメリカで大きな基金を作ったもので、この基金によってエンゲルバートも資金を得ています。これは今、私たちが使っている多くのテクノロジーを作るのに使われた基金で、作った人の名はリックライダーといいます。
 「人間とコンピュータの共生」というタイトルのこの論文は、コンピュータに何ができるか、人間に何ができるかということをきちんと見極め、互いのパートナーシップをともに進化させていくことを勧めるものでした。リックライダーは心理学者なので、生物学の語彙を使って、ふたつの有機体のシンビオシス(共生)を提案したのでした。コンピュータと人間との組み合わせがうまくできるようになれば、数年以内に、これまで誰も考えつかなかったような思考ができるようになると彼は予言しています。これは確かに科学と工学に関してはできたと思います。アメリカ、そして世界のさまざまな先進国、によってこういったことができるようになりました。
 もうひとつの問題は、意味の問題です。このシステムに対する意味、意味に対する意味、科学に対する意味というものがどんどんと新しくなってゆき、人々が考えている標準的な意味ということではなくなっているということです。アメリカでは、何百万人の人がこれによって混乱しています。彼らは、科学というものが何かということを理解していると思っているのですが、サイエンスをちゃんと理解するためには、十年くらいきちんと教育を受けなければならないわけです。ですから、科学という同じ言葉を使っても、専門家と普通の人では、ぜんぜん意味が違うということになるわけです。過去数百年を振り返ってみても、言葉の使われ方、意味は随分違ってきています。
17_RockIwa
 これは、英語で「Rock」、「岩」ですね。日本語の発音がよくわかりませんが、「岩」といっておきましょう。ある「何か」です。英語では、この言葉はただ単に「岩」という手で拾って手に持てるものだけではなく、他にも「岩」というカテゴリーで示されるものを含みます。これは、ひとつの共通概念があって、そのまわりには境界線があるわけです。つまり、この境界の中は岩で示されるもの、それ以外のものという境界線があります。これが、この言葉を使うときに考えられる思考のあり方です。一方、科学とか現代的な考え方では、こういう風には考えません。つまり、この「岩」は丸いけれども、どうして丸くなったのか。何かが影響したに違いない。穴が開いていたりするけれども、どうして穴が開いているのか。何かが影響したに違いないと考えるのです。
 最近では、ここに完全な境界線がないということ。そして、いろいろな形で外のものと関係しているということが分かってきています。ひとつの「何か」と考えられているものは、実はシステムの中の一部だということなのです。このことは、子どものうちから学んでおくべきことです。
18_DynamicSystem
 さらに、これをもっと詳しく見ていくと、これが非常にダナミックなシステムである、ということに気づきます。つまり、静止しているわけではなく、中にある原子は常に動き続け、外部の世界と常に共振しているのです。
 言語によっては、よりものをプロセスとして考えることができるのですが、英語はそれに向いていません。ほとんどの名詞は、プロセスにあるというのではなく、ただそこで孤立しているというふうに考えられがちです。しかし、ダグは、ダイナミックなシステムとして見ていました。
19_Earth
 そして、ここで彼の提案書の中でもそれを語っています。どうすれば我々は議論をする能力を改善して、ただ単に議論に勝つというのではなく、もっと建設的な議論をすることができるようになるのか。というのも、議論というのは非常に優れた思考方法だからです。
 議論の問題点というのは、それがストーリーのようなものだというところあります。順序にしたがって、ひとつのものが別のものに続いて、最後に結論がある。そして、人間はストーリーを好きか嫌いかで判断します。それが真実かどうかはどうでもいいのです。もし、結論が気に入らなければ、人間は無視をします。悪いストーリーだ。私はそれを信じないと。今のワシントンの政治家は、気に入らない結論は無視するわけです。
 最近の議論は、もっと複雑です。ストーリーとまでは言えないものとか、多くのことに支えられた議論をいっぺんにするということが考えられます。そして、こういったものをより複雑な形で取り入れることができます。
 そして最後に、こういった議論にシステムを取り入れることができます。しかし、システムには中心がないので、それを言語で行うとしたら、どこから始めたらいいのかという問題があります。
 たとえば、私が地球についてある主張をしたいとしたら、どうなるでしょうか。地球という非常に複雑なシステムが今、非常に危険な状態になっている。それをなんとかしなければ我々自身が絶滅するかもしれないという主張をするとします。
しかしながら、たとえばそれを報告書のようなペーパーで、このままでは大きな経済的損失がありますよ、といった主張をしようとしてもなかなかうまくいかないわけです。
20_simulationClimate
 たとえば、最近のシミュレーションを用いた議論を紹介します。だいたい100年くらい前からの気温変化のシミュレーションです。右側は、今起こっていることです。そして、左側は、CO2の排出度を今の時点で抑えたとしたらどうなるかというものです。100年後には右のような形になってしまいます。これはシミュレーションで示すことができるものです。今、何かをしなければいけません。つまり、このままだと悲劇的なことになるぞ、ということをシミュレーションで示さなければなりません。百年も待っていたら、もう何も元に戻らない。今こそ何かをしなければならないということをシミュレーションで示すことができるわけです。
 しかし、一般の人にこれを示すためには、新しい言語、新しい道具で主張していかなければなりません。それが、エンゲルバートが50年、60年前から考えていたことなのです。
21_Technology
 システムの中ではさまざまなものが相互に関連しているわけですが、このようにその中のひとつをピックアップすることができます。この図は、直前のものと同じですが、しかし、ひとつを真ん中に置くことによって複雑な関係を考えることができます。
 これは、また別の見方です。集合の重なり合いを示すベン図です。この中心に人間を置きます。そして、この数千年の間、人間がどう考え、どう行動してきたかを見てみます。最初は、他の動物と同じように色々いじったり、遊んだり、探検したりしていました。猿もやっています。人類はものを作りましたが、場当たり的にやっていました。ほとんど偶然です。しかし、数千年前にエンジニアリングと言うものを発明しました。そして、探索をよりよくこなすことができるようになりました。なぜそう機能するかは分からないのですが、料理本のようなものです。ともかくうまく機能するので、それを書きとめ、文化的に継承してきたのです。エンジニアリングを通じて、数学が出てきました。そして、大きなアイデア、すなわち科学が発明されたのです。今から数百年前のことです。
 我々人類は、探索し、ものをいじったりするところから、物事をよりよくする方法を見つけ、それらのアイデアを再現し、より効果的にやろうとしてきました。今では、コンピュータでそういったことをやろうとしています。そして、科学というものは、ある意味マスターということができます。頭脳の問題すら解決することができるわけです。何故、私たちが科学を活用するのかといえば、科学手法や科学の道具を使うことで、我々の頭脳ができないこともできるからです。それから、哲学はより大きなものです。哲学は、ものを考えることを考える方法です。私たちが何故よく考えられないのかということについて考えることです。
 これらは全部、テクノロジーという大きな枠の中に含まれています。多くの人は、テクノロジーというとiPhoneのようなものだと考えがちです。しかし、テクノロジーというのは、我々が作っているものすべてです。言語も書くことも、テクノロジーです。非常に大きな領域です。そして、テクノロジー、哲学、エンジニアリング、数学、科学にアスタリスクを付けました。それは、それぞれが具体的に意味を持っているからです。人々は実際にこれらを行なっています。そして、そういった意味というのは、一般の人々が考えている意味とは異なっています。ですから、新たに名前を作るべきだと考えられます。ダグ・エンゲルバートも同感だと思います。最も重要なテクノロジーは、我々の思考を助けてくれる発明です。
22_HuntingGathering
 たとえば、子どもの視点から考えた場合、子どもは無の状態で生まれるのではありません。ある文化の中で生まれるのです。
 何千年も前には、狩猟採集文化の中で生まれました。言語やストーリーをはじめ数多くのことを学ばなければなりませんでした。そして、遺伝が形作る脳は、ある種のものにより強く反応するように作られています。目に見えるもの、小さなもの、身の回りにあるもの、速く動くもの、すぐに起こるもの、ストーリーが関わるもの、社会的なものに合わせて成長しました。こういったことは、今でも進んでおります。
23_Paris
 しかし、フランスで育った子どもは、人工物に接する機会が多くなります。しかし、非常に単純なものです。人工物があるということ、そして、お互いをどう扱うかということ以外は、狩猟採集社会と非常によく似ているのです。これは、人類全般にわたって言えることです。一つの文化の中で育ち、その文化が、我々の現実に対する見方となるわけです。では、実際はどうなのか。そこに目に見えない何があるのでしょうか。
24_Baby_System
 それを見えるようにするには、私たちはシステムの中にいるという見方をすることです。そして、ここでは6つのものに注目しなければなりません。しかし、この方法は一般の人には難しいので、これを合成した表現にします。
25_6Elements
 子どもは宇宙の中で生まれ、地球という惑星の中で生まれます。そして、自分が所属する社会システムの中だけでなく数多くの社会システムの中で生まれ、身の回りのテクノロジーだけでなくインターネットなど目に見えない沢山のテクノロジー・システムの中で生まれます。そして、人体自体がシステムであり、頭脳は宇宙の中で最も複雑なシステムです。私たちは、これらをよく理解しているわけではありません。そして、ほとんどの人たちは理解しようとすらしません。理解するには長い時間がかかるからです。
 そこで、どうすれば世界を救うプログラムを作成できるかとか、どうすれば子どもたちを助け、成長したら我々の弱点について考えられるようにするかといったことについて考えたいと思うのです。
26_Desert
 あるいは、こんな状態になってしまうかです。60年前、ダグ・エンゲルバートは、「人類の能力を強化して、複雑で重要な問題に対処できるようにしなければならない」と言っていたのです。では、それをどうやって実現するか。
27_InteractiveTechnology
 ここで道具を見てみたいと思います。このように道具というのは、手に持って何か作業をするものという風に考えるわけですが、その時、道具も私たちに影響を与えます。その道具について私たちは何かを学び、その学びが私たちの脳に変化をもたらします。
 その結果、読むとか書くとか、そういった洗練された道具を発明しました。これは脳に変化をもたらす発明の中でも最も大きなものでした。何故ならそれは、単に私たちが記憶をしたり、メッセージを送るのを助けただけではなく、より強力にアイデアを表現したり、より強力に学ぶことを可能にしたからです。こうして読み書きは、文化の学習を通じて脳を劇的に変化させました。
 そして、ダグはこう考えました。もし、人類にここ数百年にわたって得られた新しい知恵を与えたらどうなるだろうか。このような新しいインタラクティブ・コンピュータ・テクノロジーを与えたとしたらどうなるだろうかと。
 間違いなく、それは脳に大きな影響を与えます。私たちは、本当にそれに耐えられるでしょうか。
 たとえば、私たちは、原始人に核兵器を与えたいとは思わないでしょう。岩ならいいです。岩であれば、そんなに大きな害をもたらしません。でも、核兵器を与えたら大変なことになります。そして、このインタラクティブ・コンピュータ・テクノロジーは核兵器よりもっと強力な武器なのです。
28_EinSteinMSG
 アインシュタインの言葉を思い出してください。もし、このパワーを手にしたとして、問題を引き起こしたときと同じレベルでそれを用いるとしたら、事態はとんでもない方向に進んでしまうでしょう。それが実際、ここ40年、このテクノロジーが商用化されてから起きたことです。人類とこのテクノロジーの間で非常に危険なフィードバックのループが起きています。
 ダグはその危険性に気づいていました。人類の知性を向上させなければ、大変なことになってしまう。そこで、ダグは提案しています。重要なことは、教育とトレーニングです。本来であれば、スマートフォンやパソコンは、気軽に使わせてはいけないものだったのです。その影響力は計り知れません。そして、この道具には危ない性質があるので、それを避けるための新しい使い方、方法論が必要です。加えて、新しい言語、新しいシステムの言語、科学の言語が必要です。つまり、システムを構成するこの5つの要素。それらがうまく機能すれば、人間の知性を向上させることができ、私たちはテクノロジーの死のスパイラルから解放されることでしょう。
29_ChildMustLearn
 この5つの要素を結合し、システムとして機能させること。それが、この144ページの論文が提案していることのひとつなのです。私たちは、増幅器を設計することが必要です。コンピュータはこれまで発明された中でも最も優れた増幅器のひとつです。私たちは、決してこのコンピュータ・テクノロジーを、新しい方法論や新しい言語を教えないまま、勝手に使わせてはいけないのです。私たちは、大きな視野で物事を考えなければなりません。繰り返しになりますが、すべてのシステムと同じように、これらはすべて関連して存在しています。孤立して存在しているわけではないのです。
 これからの子どもに理解してもらう必要があるのは、私たちがシステムの中で生きているということ、そして、私たち自身がシステムであるということなのです。
30_144PBigIdea
 ということで、私の今日の話の目的は、オンラインでこれをダウンロードして読んでほしいということだったのですが、みなさん、私は目的を達成することができましたでしょうか。もし、そうであれば、グーグルで「人間の知性を増強するための概念的枠組み」と検索して、これを読んでください。
 ご静聴ありがとうございました。
「人間の知性を増強するための概念的枠組み(AUGMENTING HUMAN INTELECT : A CONCEPTUAL FRAMEWORK)」はこちらにあります。
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