2018年12月10日(月)に日本全国同時開催を予定しているインターネット商用化25周年&ダグラス・エンゲルバートThe DEMO 50周年記念「IT25・50」シンポジウムの下準備渡米レポート、その3です。
私は、現状のPCインターネット、モバイルインターネット、そして、本やテレビといったオールド・マスメディア、いずれも効果的なITリテラシー教育に適していないという問題意識から、 ColleCard「IT25・50」というトランプと百人一首を組み合わせ、ネットとも連携する新しいITリテラシー教育プラットフォームを考案。ウタゴエ園田智也さんの協力を得て、 1枚1枚のColleCardにスマホをかざすと、人工知能による物体認識によって関連Webページに自動的にジャンプするのはもちろん、さまざまな物体を認識・カードコレクションできる ColleCardアプリをAppStoreで公開しました。
今回の渡米で、アラン・ケイはもちろん、SmallTalk開発者ダン・インガルス、The Computer History Museumのキュレーターの方々、ダグ・エンゲルバート協会理事にして、エンゲルバートの実娘であるクリスティーナ・エンゲルバート氏、そして機械学習に革命的進化をもたらしたGANs発明者のGoogleエンジニア、イアン・グッドフェロー氏など、錚々たる方々に紹介させていただき、大変高い評価を得ることができました。
そして、アラン・ケイからは、「発想はいいけどWikipediaにジャンプするだけでは十分ではない。たとえていうなら、エアギターみたいなもので、本当にギターが弾けるまでいかなければならない」との鋭い指摘があり、その後、アラン・ケイが最近まで開発プロジェクトに関わっていたDynamiclandというNPOを訪問して、アラン・ケイの「Dynabook Concept」が、今なお、私たちのはるか先を見据えたビジョンであるということを思い知りました。さっそく、今回の旅で学んだことを反映させたColleCardアプリ V2の開発に取り掛かろうと誓いました。
DynamicLand訪問は、衝撃の体験でした。
一般的に、「ダイナブック・コンセプト」は、タブレット型コンピュータの最初のアイデアであると考えている人が多いのですが、それは間違っていると、アラン・ケイは言います。「Dynabook Concept」は、今日のPCやタブレット、スマートフォンがまだ実現できていない、あるいは今日のウェブがまだ実現できてない「サービス」なのです。
その特徴は、「共同コンピュータ」であり、「アプリではなくエージェント」であり、「人間が全身で活動するもの」だというところにあるといいます。
今のコンピュータは、スマホが象徴しているように、仲間で一緒にいても、それぞれが孤立しており、画面を見て、指で操作をしているだけの存在となっています。
アラン・ケイは、そんなものは「Dynabook Concept」が目指したものではない、と断言します。
彼が目指しているのは、テーブルを囲んだ子供たちが自分のタブレットに没入していたり、歩きスマホをしていたり、スマート・スピーカーに話しかけていたり、VRのゴーグルを装着している世界ではありません。
そうではなく、子供と大人がテーブルを囲んで、ワイワイガヤガヤ楽しくやっている世界なのです。
Dynamiclandは、部屋全体がコンピュータとなっています。
天井にはカメラとプロジェクタ、スピーカー、PCが設置され、テーブルの上には何枚かの紙が置かれていて、どの紙にも赤、黄、緑、黒の丸が四隅に並んでいます。この組合せがプログラム・コードで、天井にあるカメラがそのコードを読み込み、プロジェクタがプロジェクション・マッピングを始め、スピーカーが鳴り始めるのです。そして、さまざまなデータが可視化され、動き始め、それを見ながら、みんなで分析するのです。
アラン・ケイにせよ、ダグラス・エンゲルバートにせよ、1968年に彼らが目指していたものは、コンピュータという、それまで単なる専門家だけしか操れない電子計算機だったものに、マウスやビットマップディスプレイ、ウインドウ、プルダウンメニュー、ハイパーテキストリンクといったUI(ユーザー・インターフェイス)を付与することで、誰もが使える道具にし、みんなで力を合わせて、さまざまな問題解決をはかり、よりよい社会を実現することでした。 アラン・ケイは、「あらゆる世代の子どものためのパーソナルコンピュータ」の論文の中で、パベーゼの「世界を認識するためにはそれを自ら構築しなければならない」という警句を引用し、「子どもたちが、自分で世界を認識するのを、大人が勝手に自分の世界の認識の仕方を押し付けて、だいなしにしてはならない」と述べています。 これまでの、工場で製品を製造するように「画一的な人材」を育成する近代教育に代わって、「自分で考え創造できる人材」の育成に優れた力を発揮するのが「ダイナブック・コンセプト」であり、パーソナルコンピュータなのです。現在のタブレット、たとえば、iPadには、そこまでの性能は備わっていません。 今、世界は色々な意味で閉塞状況に陥っています。政治的には、近代的な議会制民主主義が、単なる利権争いの場と化し、高邁な理想を実現しようというリーダーとは全く違ったリーダーが跋扈しています。そして、経済的には、資本主義的経済メカニズムが機能不全に陥っています。 そして、こうした閉塞状況をどうやって打破し、集合知に基づくグローバルな共同体をどうやって構築するかが、今、まさに問われているのです。 「IT25・50〜世界を本当に変えたいと思っている君たちへ〜」シンポジウムを開催する意義は、ここにあります。 目的は、3つです。
①本当に世界を変えた偉人の話をみんなで聞きましょう。
②どうしたら本当に世界を変えられるか、みんなで考えましょう。
③みんなで本当に世界を変えましょう。
この機会に「IT Day World Committee」を設立し、「IT Day(IT記念日)」を制定し、毎年、IT全体の発展を祝うとともに、これまでの歴史を振り返り、これからの“未来社会”をみんなで考えてゆく、国境を超えた、全世界的なネットワークを構築したいと考えています。 何故なら、それが、歴史を大きく前に一歩前進させる唯一の方法だからです。
いつか、誰かが一念発起し、そうした組織化をしていかない限り、国民国家とか、資本主義的メカニズムとか、画一的な近代教育といった古い体制を打破することはできないからなのです。
■「IT25・50」シンポジウムとは?
http://it2550.net/whats_it2550/
アラン・ケイ(上左)、ダン・インガルス夫妻(上右)、The Computer History Museumの3人のキュレーター(中左)、ダグ・エンゲルバート協会のふたり(中右)、Gooogleのイアン・グッドフェロー(下左)、ダイナミックランドのスタッフ(下右)らにColleCard「IT25・50」を紹介
ダイナミックランドを訪問。入口には「ノン・ダイナミックランド」と「ダイナミックランド」の違いを示す写真が貼られている。部屋全体がコンピュータとなっていて、天井のカメラ、プロジェクタ、スピーカーが、テーブルに置かれた紙のプログラム・コードに反応する